座談会

前編

「THE BACK HORNが語る、住野よるの魅力」

コラボプロジェクト始動に伴い、お互いの作品や好きなものについて踏み込んだ座談会が実現。THE BACK HORNのメンバーが、住野よる作品に惹かれた部分とは……?

情景が浮かぶ描写

菅波 インタビューで「こちらもファンです」という話をさせてもらいましたが、実はさっきまで将司と喫茶店で勝手にプレ座談会をやって(笑)、住野作品のすごさについて語ってました。そのときに、住野さんの小説は、頭の中に絵として浮かんでくるような細かい描写がたくさん入っているのが本当にすごいという話になって。大人である住野さんが、なんで小学生の女の子の目線であんなに書けるんだろう、とか。

山田 『また、同じ夢を見ていた』の主人公の奈ノ花ちゃんね。

菅波 そう。その奈ノ花ちゃんが落ち込んでいるときにアバズレさんというお姉さんに話しかけられて、体育座りをしたまま首を振るっていうシーンがあるんですけど、そこで「おでこがくっついたスカートとこすれて、しゃかしゃかと音がする」って描写があるんです。俺だったらそんなことまで書けないだろうなと。だけど、その描写があるからこそ、顔をあげないまま首を振っている彼女の気持ちがすごく伝わってくるんです。

住野よる

山田 小さな体なのに、音が立つくらいすごい勢いで振ってたんだろうなとか、それだけ悲しい思いをしてたんだろうなとか、情景が浮かぶよね。

菅波 うん。そんなにおでこと膝が近かったら視界は真っ暗なんだろうなとか、それだけでわかる。すごくディテールを想像して書かれているんだろうなと思って。こういう部分は、奈ノ花ちゃんの視点になって書かれているんですか?

住野 ありがとうございます。基本的には、頭の中にずっと映像が流れていて、それを文章にしていっている感覚です。たぶんこの部屋は静まり返っていて、だから、こういう小さな音も聞こえるんだろうなと思って書いたりしています。

山田 わりと俯瞰して書かれてるってことですね。

住野 はい、そうですね。

菅波 あと、描写だけじゃなく感情とかも、「わかるな、この感じ」と思うことが多いんです。瞬間的な感覚すぎて自分ではこれまで言葉に変換してなかったことを、理解してくれているような感じがする。

松田 わかる。表現がとても的確といいますか、緻密といいますか……言い当てられている感じがしてすごい。

住野 自分の気持ちを言葉にしてくれているって、僕が出会ったときからTHE BACK HORNさんに対してずっと思い続けてきたことと同じなので、そう言っていただけてすごく光栄です。

「あいつ今、何やってんのかな」

岡峰 住野さんの書かれる物語って、他の小説と比べて、読み終わったあとの余韻が長い感じがするんですよね。本を閉じて現実に戻ってからも、しばらく本の中の世界のことを考えてしまうというか。「あいつ今、何やってんのかな」って。

住野よる

住野 嬉しいです。僕にとって登場人物たちは「会ったことはないけど、すごく仲がいい友達」だという感覚があって、読者さんたちにもそう思ってもらえたらいいなといつも思っているので。

岡峰 もちろん彼らに会ったことはないけど、どこかにいて、彼らの物語にも続きがあるんだろうなっていう感覚があります。

松田 俺は最新刊の『青くて痛くて脆い』がすごく好きでした。タイトルも素敵で、青春時代にしか感じられないことが詰まっているんだろうなと思えて、読む前から惹かれていたんですけど、読んで一層、衝撃を受けましたね。主人公の楓という男の子と、秋好という女の子の関係性についての物語なんですけど、解釈の余地が残されている部分があって、自分なりにいろいろ、「このとき彼女はこう思っていたんじゃないか」とか「ここは書かれていないけど、このあと絶対こうなったんじゃないか」とかいう思いを抱きながら読みました。小説を読んでそんな思いを抱くのは初めてだったので、それをどうしても住野さんに直接伝えたくなってしまって、30分くらい、だーっと一方的にお話ししてしまったことがありましたね。あのときはすみません。

菅波 心の声が全部ダダ漏れ(笑)。それを住野さんがずっとにこにこしながら聞いてくれていて。

住野 いえ、そこまで読みこんでくださったのが、本当にありがたくて、感動していました。『青くて痛くて脆い』は、「『君の膵臓をたべたい』の住野よる」って言われ続けるのが嫌だなと思っていた時期に書き始めた作品なんです。自分にとってその状態が嫌だなと思ったのもあるし、『君の膵臓をたべたい』という作品自体が商業的に大きなものになりすぎて、意図しない扱い方をされる側面も出てきていたようにみえたので、桜良たちがちょっとかわいそうだなと思えてきて。なので、『青くて痛くて脆い』は、『膵臓』を葬り去ろうと思って書いたんです。両方を好きでいてくださる読者さんたちからは、「すごくつながっている気がした」と言ってもらったりもしますね

住野よる

松田 さっき出た、『また、同じ夢を見ていた』の世界観もとても好きでした。人間は常にあらゆる選択をして生きてるっていう考え方を、あの本から感じたんです。それがあの作品を書かれることによって生まれたものなのか、それとももともと住野さんが持ってらしたものなのか、一度伺ってみたかったんですが、どうなんでしょうか。

住野 もともと『君の膵臓をたべたい』でも、「自分の選択によって、全てが決まっている」みたいなことを書いていて、そういう「自分で選べるはずだ」っていう考え方はありました。ただ、『また、同じ夢を見ていた』を書き始めたのは、何度か新人賞に応募しては落ちて、というのを繰り返していた頃で、自分はもうプロの小説家になれるような人間じゃないんだと思って、やさぐれていたんです。言い方はあれですけど、今よりももっとクソみたいな人間だったし、これでは子供の頃夢見ていた自分に顔向けできないなと思っていたんですよね。でもだからこそ、いまからでも人生を変えられるんじゃないかなっていう、自分の願いを込めた話を書いたような気がします。THE BACK HORNさんの「ブラックホールバースデイ」を聴いたりしながら、とにかく好きなものを詰め込みました。

菅波 『よるのばけもの』でも、主人公が大きな選択をしますよね。選択した結果がどういう結末につながっていくかはわからなくても、人生を自らの手で選択していくこと、それ自体の尊さを感じました。

住野よる

山田 「選ぶ道はある」っていう可能性を教えてくれている感じがしました。

菅波 そう、教えてくれている感じ。『よるのばけもの』では特に、自分が体内で感じる「選択してよかった」という思いとは裏腹に、人から見たら、「あいつ地獄の扉開けただけじゃねぇかよ」って思われているかもしれないという、両面性を感じました。それがすごく、俺が、菅波栄純が持っている価値観に近いなと思って。他者からは「わざわざ荒野のほうに進まなくても……」と思われていたとしても、自分では「すごく生きている感じがする」と思えるような選択って、あるじゃないですか。

住野 はい、まさに『よるのばけもの』は自分ただ一人にとっての正しさみたいなものを描きたいと思っていました。

菅波 そういう人生を歩みたいなと思って生きているので、すごく共感します。

住野 ありがとうございます。そう言っていただけるなんて、本当に書いてよかったです。

すべての物語はラブコメ?

菅波 その後に『か「」く「」し「」ご「」と「』っていうラブコメ要素満載の作品を与えてくれたことも感謝です。THE BACK HORNって結構、シビアな歌詞を書くことが多いじゃないですか。でも俺、根っこではラブコメとかが大好きで、ハッピーエンドに憧れて生きているんです。だから、『か「」く「」し「」ご「」と「』を読んだときにすごくホッとしたというか、栄養をもらったという感じでした。

住野よる

住野 以前、栄純さんが「すべての物語はラブコメだと思う」とおっしゃっておられて、あれ以来、そのことについてずっと考えているんです。すごく深い言葉だなと思って。

菅波 去年、HEY-SMITHと富山で対バンしたときに、楽屋でそんな話題になったんですよ。たまたまドラゴンボールか何かの話になって、俺が「ドラゴンボールってラブコメだよね」って言ったら、みんなにすごい馬鹿にされたんです。あれはバトル漫画だろって。でも俺は、戦闘シーンですら、ラブコメのための前フリなんでしょって解釈してたから。

岡峰 いや、ラブコメのシーンも欲しいけど、本筋はやっぱりアクションじゃないの?

菅波 俺の場合、アクション部分はがんばって見てるというか……そこでがんばって見れば見るほど、最後のワチャワチャシーンがいきるんですよ。刑事ドラマとかでもそうで、人が死んだりする事件とかの緊迫したシーンがいくら長かったとしても、最後に3分くらいだけあるラブコメ、あれのためにすべてがあったという感じがするんです。何て言えばいいのかな、たとえ厳しい現実が突きつけられたとしても、すべてそのあとに来るラブコメのためのフリだと思えば、なんとかいけるかなって。……これって伝わります?

住野 はい、よくわかります。僕も、続きもののドラマとか漫画とかだと、何か大事件が起こったすぐあとの話が一番好きなんです。たとえば、友人だった男女が熱い展開をむかえた次の日とか(笑)。ふたりとも素に戻ったときに、どんな顔して会うんだろうと思って、それがすごく楽しみで。

菅波 わかる。だからなのかな、住野さんの作品でも、シリアスな場面のあとに、結構エピローグがほっこりしたりするものがありますよね。どの作品って言ってしまうとネタバレになるかもしれないので伏せますが、そういうの、「ありがとうございます」と思いながら読んでます(笑)。

住野 こちらこそありがとうございます。
あの、ただのファン発言で恐縮なんですが、気づいたときの対話のお相手がヘイスミっていうのもアツいですね(笑)。

菅波 彼らは優しいから、俺の熱弁をしばらくうんうんと聞いてくれていたんですよね。最初は「わかんねぇ」って言ったのに、最後には「そういうこともあるかもしれないですね」って言ってくれて、抱き合って別れました。

岡峰 それ、最終的にも別にわかりあってはない気がするけど(笑)。

菅波 たしかに。喋っているうちに、俺という人間がラブコメがいかに好きか、自分で気づいただけかもしれない(笑)。
こんなこと言うと意外と思われるでしょうけど、俺、住野さんの作品は、たけしさん(北野武)の映画とすごく共通点があると思っているんですよ。作風はまったく違うんですけど……たけしさんの作品って、毎回、新たな殺し方を作り出しているじゃないですか。新たなドキッとする死に方とか、新たな痛そうっていう描写を発明しないと、あの方は気が済まないんじゃないかと思うんです。前にテレビでやってたんですけど、こうやって殺したらいいんじゃないかっていうのを四六時中考えて、思いついたらメモっているらしいですよ。そこにこだわりを感じるんです。
一方の住野さんは、毎回新たな“キュン描写”を生み出し続けている。“キュン描写”っていう言葉が正しいかわからないけど(笑)、とにかく常にそういうものを生み出し続けている。こんなキュンとくる描写、他にあったかなって毎回思うんですよ。今回の小説を少し先まで読ませてもらっていますが、そこで出てくる描写なんかまさに、その新しさとうとうここに極まれり、という感じでした。

松田 たしかに、あれはすごかったよね。

住野 ありがとうございます。そう思っていただけたなら嬉しいです。読者の皆さんにも面白く読んでいただけるように、この先も頑張りたいと思います。

(9/27には、後編「住野よるが語る、
THE BACK HORNの魅力」を掲載!)

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